成人先天性心疾患 (Adult Congenital Heart Disease: ACHD)

[成人先天性心疾患]

成人先天性心疾患とは

近年の医療技術の発達により、生まれつき心臓に病気(多くは構造異常)をもつ先天性心疾患(congenital heart disease; CHD)の患者さんは、成人期まで生き延びられるようになりました。そのような成人期のCHD(成人先天性心疾患 ; adult congenital heart disease (ACHD))の患者さんは、小児期術後で長期間経過しており、術後続発症、不整脈、心機能の低下など様々な問題を合併していることが多くあります。また動脈硬化性疾患など成人期特有の病気についても考慮しなければなりません。

当院ではこのような多領域にまたがるACHD診療に、小児・成人の心臓内科・外科がACHDチームとして関わり、病態評価や検査計画、治療方針について議論を重ね、連携しながら、対応しています。

頻度の高い先天性心疾患①:心房中隔欠損

心房中隔の一部が先天的に欠損し、孔(欠損孔)が開いている病気です。孔を介して左右の心房間で静脈血と動脈血の血液の交通(短絡)が起こります。一般的には左房から右房に流れるため、右心系や肺に流れる血液量が多くなります。

心房中隔欠損では一般的に
左房から右房に血液が流れます

成人になってから不整脈や心不全、肺高血圧症を発症する可能性があります。また、卵円孔開存症と同様に、心房中隔欠損症の方が脳塞栓症を発症した場合、脳塞栓の原因として孔を介した奇異性脳塞栓症(※脳塞栓症の奇異性脳塞栓症にジャンプ)の可能性が検討されます。

短絡量が多い(孔を流れる血流が多い)、あるいは症状がある場合や、脳塞栓症を併発している場合は閉鎖が検討されます。閉鎖はカテーテルもしくは手術で、孔の形態や合併奇形などによりどちらが適切か判断します。経食道心エコー検査が重要な検査です。

頻度の高い先天性心疾患②:心室中隔欠損

心室中隔の一部が先天的に欠損し、孔が開いている病気です。孔を介して左心室から右心室への短絡がおき、肺血流量、左心系の容量負荷が増加します。大きな欠損孔は乳児期に心不全で問題となり、乳幼児期に治療介入がされることが多いですが、小欠損では血行動態への影響が少なく、未閉鎖のまま成人までフォローアップされています(心雑音で診断されていることがほとんどです)。

心室中隔欠損では一般的に
左室から右室に血液が流れます

未閉鎖でフォローアップ中、大動脈弁逸脱が進行する場合や、容量負荷で左心系の拡大・左室機能低下の進行が認められる場合は手術を検討します。治療適応がない場合でもフォローアップを継続しますが、心内に早い血流の短絡があるため、感染性心内膜炎予防が必要となります(歯科治療前の抗生剤内服など)。

左室機能低下がみられる場合は心不全の薬物治療を併用します。

Fallot四徴症(Tetralogy of Fallot; TOF)

右室流出路から肺動脈にかけての形成不全と心室中隔欠損症が特徴的な病態です。肺血流量が低下し、静脈血が心室中隔欠損孔を通り大動脈へ拍出されるため、出生時から低酸素をきたします。現在では乳児期に右室流出路形成と心室中隔欠損孔閉鎖を行う心内修復術(Intracardiac repair; ICR)が行われます。

心室中隔を含む流出路を形成する細胞の異常により、中隔が前方(肺動脈側)に偏位することで、①大きな心室中隔欠損と②右室流出路-肺動脈弁-肺動脈が低形成となり狭窄となります。③大動脈は下側の中隔の上に乗る形になり、右室流出路狭窄のため④右室は肥大します(四徴)。

Fallot四徴症では右室からの血液が
大動脈に混ざり全身性チアノーゼになります

成人のTOF患者さんでは、一度手術をした後でも肺動脈弁逆流(pulmonary regurgitation; PR)がでてくることが多いです。長期間の重度PRから右心不全につながるため、肺動脈弁置換術が検討されますが、生体弁を入れることから再弁置換時期を考慮して、早すぎず遅すぎない適切な治療タイミングの検討が必要です。最近はカテーテルを用いた肺動脈弁置換術も可能になりました。

PRのほかにも、右室流出路狭窄、大動脈拡張・大動脈弁閉鎖不全症なども合併しやすく同時に手術を要することもあります。また、突然死の原因となりうる心室性不整脈が問題になることもあり、不整脈に対する治療(アブレーションや不整脈デバイス植え込みなど)が必要になることもあります。

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