心筋症 (Cardiomyopathy)

[心筋症]

(特発性心筋症、二次性心筋症など)

心筋症を診断することは難しい?

心筋症(cardiomyopathy)は、心拡大(心臓の内腔が大きくなること)や心肥大(心筋が厚くなること)に伴い心臓の収縮能や拡張能が低下して、心不全や不整脈などの合併症を起こす病気です。

心筋症は病態によってアプローチが大きくことなるため、その原疾患の鑑別が必要です。以下に一例として当院で行っている鑑別のステップを示します。
①心電図・心エコーなどの一般的な循環器で行われる検査で“アタリ”をつける
②心機能や心筋の性状に影響する暴露要因を確認する
③ここまで1〜2回の外来診療でできます
④心筋生検・画像検査・カテーテル検査やバイオマーカーなどで二次性心筋症を“rule-in”する:ここでは比較的特殊な診断技術が必要です
⑤残った病態は”rule-out(除外診断)”で原発性心筋症と考える

特異的な治療が有効な二次性心筋症として、心アミロイドーシス、ファブリー病、あるいは心サルコイドーシスなどが挙げられます。

心アミロイドーシス

心アミロイドーシスでは、アミロイドという繊維質のような物質が心筋に沈着し、心肥大(壁肥厚)に伴う心不全や不整脈を併発する疾患です。アミロイドの前駆体がトランスサイレチンであるタイプ(ATTRアミロイドーシス:変異型ATTRvと野生型ATTRwtに分かれます)と前駆体が免疫グロブリン軽鎖であるALアミロイドーシスがあります。高齢者で良く見られるATTRwtの診断は心筋の壁肥厚や、心筋生検におけるアミロイド・前駆体沈着や核医学検査(99mTc-ピロリン酸シンチまたは99mTc-HMDPシンチ)などが有用です。

心アミロイドーシスでは99mTc-ピロリン酸シンチまたは
99mTc-HMDPシンチで心臓に集積がみられます。

治療方法の発展のおかげで心アミロイドーシスに対しては前駆体ができるのを抑える治療が可能です。ATTRにはtafamidis、変異型ATTRにはPaticiranやVutrisiranが有効です。AL型にも最近有効な薬剤が登場してきました。

ファブリー病

ファブリー病は遺伝性疾患です。Alpha-galactosidase A (GLA)という酵素の働きが悪く、心臓以外に、腎臓や末梢神経にglobotriaosylceramide (Gb3)という糖脂質が蓄積します。心臓に関しては初期は心肥大、進行すれば線維化が起こります。診断はalpha-galactosidase活性以外に、心臓MRIなどの画像検査、心筋生検や遺伝子検査が有用です。

ペースメーカ植込後(X線写真)

ファブリー病に対して、酵素補充療法は以前から行われている有効な治療です。一部の変異型にはシャペロン療法という酵素の安定化をたすける治療が可能です。

サルコイドーシス

サルコイドーシスは、非乾酪性肉芽腫という病理変化を伴う炎症性疾患です。心臓以外にも眼、皮膚、肺やリンパ節に起こり得ます。心臓においては、心筋の収縮障害から進行すれば心拡大が起きます。不整脈を併発しやすいことも知られています。診断には心臓MRIや血液検査のほかに、心臓にブドウ糖が取り込まれているか調べる核医学検査であるFluorodeoxyglucose-Positron Emission Tomography(FDG-PET)が病勢の把握に有用です。

サルコイドーシスの治療は免疫や炎症を抑えるステロイドが一般的です。そのほかの免疫抑制剤が効果を発揮することもありますが、本邦では保険適用外です。

心サルコイドーシスの活動期
ステロイド治療により
炎症・免疫反応が軽減